山本メディカルセンター
齋藤 真理子 院長
昭和大学医学部卒。形成外科専門医、医学博士。2010年に当センターに入職し皮膚科・形成外科を立ち上げる。アンチエイジング分野にも取組み、メディカルエステ、ドクターズコスメなどの開発・販売も手がけている。2016年4月に、実父である山本勇医師から院長職を受継ぎ山本メディカルセンター2代目院長に就任。内科、人間ドッグ、訪問看護ステーション、皮膚科・形成外科外来、美容皮膚科・外科を統括している。
歴史は長くエビデンスの多い炭酸療法
数年前から炭酸美容がブームのようですが、私は「炭酸は医療の領域」という意識の方が強いですね。傷の修復やニキビ、アトピーの治療例に関しては枚挙にいとまがなく、歴史もまた古く、最初に壊血病の民間療法として炭酸が利用されたのは1770年という説もあるほどです。
美容医療としても皮下に直接炭酸ガスを注入して、色素沈着やシワを改善するメソセラピーの効果に関して、数多くの論文が発表されています。
新しいようでいて、実は歴史のある「炭酸療法」ですが、なぜこれまで注目されてこなかったのでしょうか?
これは私個人の見解ですが、効率的に経皮吸収させる技術がなかったからなのではないかと考えています。
メソセラピーは大掛かりな機械が必要でコストがかかり、皮膚疾患の治療の場合、人手と手間がかかってしまうため、あまり積極的になれなかったというところではないでしょうか。
ですが、この数年で技術革新が大幅に進み、炭酸の経皮吸収がたやすくなったことから、ブームに火がついたかもしれません。
世の中には、様々な健康法・美容法がありますが中には眉をひそめたくなるようなものもあります。民間療法の中にも、むしろ健康被害を及ぼすのではないかと思われるものも存在しています。
私が「炭酸」を治療に積極的に取り入れているのは、長い歴史の中でその有用性が証明され、なおかつエビデンスの多さゆえのこと。
今、世界の医学会はホリスティックを再評価しはじめています。身体の生理的作用を利用した「炭酸」は副作用がなく、安全で安心な「代替療法」として今後は美容や医療の主流になっていく気がします。
始まりは皮膚疾患の治療
実は炭酸と医療の結びつきは意外に早く、20年以上まえから医療の現場では活用されていました。現在、美容アイテムとして炭酸パックは大変人気ですが、実は当初は「美容目的」で開発されたものではありませんでした。
皮膚疾患の治療、中でも特に難治性の高い褥瘡の治療に利用されていました。ちなみに、褥瘡とは、寝たきりで体の動かせない方の臀部や背中など、布団に長く接していることで慢性的な傷となる皮膚病で、患部が常に刺激にさらされるため、症状が悪化しやすく、進行すると組織が壊死してしまうというやっかいな疾患です。
ですが炭酸をこうした皮膚疾患に利用すると修復に高い効果が見られることから、治療法の一つとして認知されていました。
私の専門は形成外科で、ケガや病気、手術などによる変形部分の修復・再建を行う領域です。形成外科でも、炭酸は治療をサポートするケアとして導入されています。
一例を上げると、糖尿病壊疽などで切断せざるをえない足や指に、炭酸浴で血行を促進して少しでも上皮化をねらうために、処置前に1日2回手浴や足浴(炭酸浴)を行います。
たったこれだけですが、血流改善して指先や足先の血色が良くなり、切断部位がぎりぎりまで機能温存できるのを日々、実感していました。
炭酸が傷を修復するワケは
炭酸が血管に入るとヘモグロビンから酸素を切り離し、酸素を細胞に送り込むのですが、その際血管は一時的に酸素不足となります。すると酸素不足を感知した身体は、慌てて血液を送り込むという仕組みをボーア効果と言いますが、このボーア効果が患部に血液と酸素を送り届け、結果として免疫が活性化し修復を促すのです。
言ってみれば、炭酸が傷を治すのではなく、炭酸を利用して治る身体に変える、ナチュラル治療法なのです。
血流の障害によって起るトラブルは皮膚疾患だけではありません。血液の主な役割は、栄養分や酸素を体内各所の細胞に届けること。同時に、体内で発生した老廃物や二酸化炭素を回収し、腎臓や肝臓に運ぶ役割も担っています。
血流が滞るということは、細胞や臓器に栄養が行き渡らなくなり、老廃物が長時間体内にとどまることになります。
この状態が長く続けば、やがて動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクが高まってしまうのです。
さらには健康面だけでなく、美容面でも新陳代謝の低下によりシミやシワ、くすみ、乾燥などの肌老化をまねく原因にも。血の巡りを良くして、末端まで酸素と血液を送り込むことがいかに重要か、おわかりいただけたでしょうか。
炭酸パックこそが最大の効果
少し前後しますが、私が勤務医時代に経験したエピソードをお話します。医師になって5年、炭酸浴で血流が改善して、機能温存できる部位が増えて切断する部位が最小限になる!ということは常に現場で実感していました。
ところが、壊疽もない健康な自分自身が炭酸に頼ることになるという予想外の出来事が起こったのです。
忙しさと不規則な生活リズムからか、ある時顔がひどい吹き出物に覆われ、まったく治らなくなってしまったのです。何とかしなくてはと、レーザー治療、フォトフェイシャル、薬物治療、ニキビや吹き出物向けと言われているスキンケアetc思いつくことはすべて行ったのにも関わらず、数か月たっても吹き出物は収まってくれません。
やり過ぎて、逆に悪化させてしまっていたのですね。そこで、それまで行っていたケアを一つひとつ止め、経過観察していくうち唯一、ほかの状態よりも悪くならず、赤みを鎮静させたのが炭酸パックでした。
そこで炭酸パックだけを1ヶ月続けたところ、ようやく悪夢のような肌トラブルは収まってくれたのです。
治らないことに精神的に追い詰められた時期もありましたが、そんな私を励ましサポートしてくれたのは、学生時代からの親友で薬剤師でもある弘中秀美。炭酸パックと彼女の存在が、私を助けてくれたことは言うまでもありません。
炭酸パックだけを3ヶ月続けてみた結果
自分の肌で実感
これまでは、糖尿病壊疽などの病気の方に血流改善目的として炭酸浴を捉えていましたが、自分の肌で炭酸の効果を実感し、肌が改善していくことで血流改善以外の炭酸の力をより知りたくなり、炭酸について深く調べていくようになりました。
すると炭酸には皮脂汚れや、メイク、古い角質などのタンパク質になじみやすい性質があり、やさしく汚れを落とすマイルドピーリング効果や肌、髪を弱酸性に保つ働き、さらにはアストリンゼン(収れん)といわれるタンパク質をひきしめる効果があることがわかりました。
今、私が院長を務める山本メディカルセンターでは、こうした炭酸の効果を利用して頭皮の改善や薄毛の治療、肌質改善などにも活用しています。
患者さんの心に寄り添う医療の実現
吹き出物の体験を通して私が感じたのは、医療とは単に「病気を診る」だけではダメなのだということです。
他人から見ればどんな些細な不調でも、身体が正常でない状態が大きなストレスとなり、心まで壊しかねないのです。これは、美容の面でも同様でしょう。
「人生の充実」とは、身体の健康だけでなく心も健康であればこそ。患者さんの不安な気持ちを無視して、決めつけの医療・押し付けの医療ではなく「心に寄り添う医療」を目指したくなった私は、2016年、理想の医療を実現するべく独立しました。
そして、独立と同時に「一人でも多くの女性に本当に必要とされるドクターズコスメをお届けしたい」という想いが募り、親友であり薬剤師でもある弘中秀美と共に「ひでまりメディカル」を立ち上げました。
ひでまりメディカルは営利目的ではなく、コスメの収益金で病児保育の施設を設立することにあります。子供が体調を崩した時に保育園に預けられなかった時、熱がでて呼び出された時、仕事や家庭の事情で子供の育児が困難な時に子供を安心して預けられるスペースと仕事ができる環境を提供したいという願いがあります。 この大きな大義こそが私達の実現したい心に寄り添う医療であり、信念でもあるのです。